「苦手なことに、どうしたら楽しく取り組んでもらえるか」。そんな視点を大切に、幅広い年代への関わりを学べる田邉ゼミナール。「どんな年代の人にも運動の楽しさが伝わってほしい。安全に、効果的に運動を続けていくための取り組みを学生たちと一緒に考えていきたい」と田邉愛子准教授(スポーツ健康学科)はうなずく。
中高齢者向けの予防医療を主軸としつつも、県内各地で実践するフィールドワークは全世代を網羅する。生坂村健康運動教室や国営アルプスあづみの公園でのウォーキング指導教室をはじめ、介護付きマンション在住者へのプログラムや子ども向けの水泳教室など、対象とする年代も性別も様々だ。
「運動を継続してもらうために、お茶の時間を設けたり、最初に理論を説明して納得感を持ってもらったり、教室によって展開を変えている。子どもたちには最初の自己紹介で興味を引けるよう、面白いことを工夫したりする」など、対象者によって「つかむ」ためのコツは異なる。木曽町で男性向けに開催した教室では、参加者を学内に招いて学食を提供する日程を組み込んだところ好評を博したといい、「運動が苦手な人に、どんなふうに声をかけたらやる気になってもらえるか」と、日々ゼミ生とともに知恵を絞っている。
とりわけ富士見町での子ども運動教室は、体育が苦手な子どもたちを対象に実施を重ねて今年で10年。チラシには「もうスポーツにがて!なんて言わないぞ!」「ちょっとした『コツ』さえつかめば逆上がりクリア~!」など夢のようなキャッチコピーが躍り、親子を中心に例年50人以上が参加するという。「子どものうちから『できた!』という経験を積んで、自己肯定感を高めていってほしい」と田邉准教授。体育教員1名で対応せざるを得ない学校の授業とは異なり、うまくできない子どもを学生たちがマンツーマンでフォローできるのは「ゼミならでは」とほほえむ。
本来のメインテーマは「農業と健康づくり」。田邉准教授自身が学生時代に農業体験をした経験から「農業と運動機能」が深く結びついていることに関心を深めたという。2023年にはJA松本ハイランド協賛のもと後継者不足に悩むすいか農業へアプローチ。2021年に実施したアンケート調査をもとに、農業者が抱える腰痛や膝痛などの健康問題を解消するためのストレッチ教室などを開催した。「健康づくりのための取り組みを通して、農業環境改善のために一役買えれば」と願い、子どもたちの健康づくりに力を注ぐのも「未来の担い手として、丈夫な身体を作っていってほしい」との思いを込めている。
学生たちにとっても「フィールドワークが豊富なのは強み」と自負する田邉ゼミ。「学生のうちから地域の人たちに育ててもらえる環境は貴重」との言葉通り、「子どもから高齢者まで色々な人と関わる機会が多く、社会に出るための経験を積める」とゼミ生たちは口をそろえる。全ての世代を対象とした幅広い取り組みは、これからの健康づくりの担い手をも日々育んでいる。
取材/佐藤春香
田邉 愛子 准教授
大分県大分市出身。信州大学大学院医学系研究科博士課程卒。りんごが大好物で、学生時代に松本市内で農業体験に取り組んだ経験から「農業と健康づくり」に関心を抱く。農業農村の環境改善に向けた中高齢者の筋力トレーニング効果について研究のかたわら、次世代を担う子どもたちを対象とした運動教室に取り組む。スポーツが好きで、自身の競技経験を活かして本学ハンドボールの部長を務める。主な所有資格は健康運動指導士、ヘルスケアトレーナ、中学校・高等学校教諭一種免許状(保健体育)、他。