人間健康学部スポーツ健康学科根本ゼミナールのキーワードは「思いやり」。「どんなに専門知識があっても、聞いてもらえなければ意味がない。話したときに相手の心にふっと落ちるようなコミュニケーションを大切にしている」と、根本賢一教授(大学院健康科学研究科・スポーツ健康学科)は語る。ハイレベルなフィールドワークで学生たちは高い実践力を養い、現場での人と人との交流を通してトレーニングがもたらす力を実感する。「学内で座って講義を受けるだけでなく、実際に目の前の人が元気になって生活の質が向上していくのを体感することが大切」と、実践と体験に何よりの重きを置く。
自治体や企業内での健康づくりには特に力を入れており、白樺リゾート池の平ホテルと根本ゼミが提携しておこなう健康増進プロジェクト「健康診断いきいきプログラム」は、参加費1回4000円、完全予約制のプログラム。「健康増進意識の高い方々が集まりやすい」といい、ゼミ生が指導にあたると「(指導の)声が小さいです」など参加者から指摘を受けることもあるという。「良いスキルを持っているだけでなく、伝わるように実践できることが大切。特に運動は『この先生とやっていて楽しい』と思わないと、実践したいという気持ちにはならない」と教授は強調。緊張感の中で参加者の反応を観察しながら指導を実践し、雰囲気づくりや心の交流を肌で学んでいくことで、自然と思いやりが育まれ、「敬服するほど優しい人間になっていく」という。
「最初は自分が全て引率していたが、今はゼミ生のみで自治体の訪問も担う」と根本教授。4年生が3年生を引率し、率先して打ち合わせや指導する姿が年々引き継がれているという。学生たち自身の主体的な取り組みを重んじ、最終的には先方との打ち合わせからその後の振り返りまでを全てゼミ生主導でおこなうのが根本ゼミの方針。社会人さながらの経験を積むことで即戦力となれる力をつけた卒業生たちは、各企業や自治体から高い評価を得ているという。「『人を育てる』ということに手間やお金を惜しまないことで、システムが確立されていく」と教授はうなずき、「能力のある学生が多くいることをもっと広く知ってほしい」とほほえむ。
「身体のつくりや運動のメカニズムの基本は皆同じ。プロアスリートから高齢者、運動が苦手な人まで、どんなフィールドでも応用が利くのが運動指導者の強み」。ゼミ修了後は健康運動指導士・第一種衛生管理者等の資格を生かし、運動施設や病院、学校の先生など、多種多様な可能性が広がっている。
【松本大学 人間健康学部長 博士(医学) 根本 賢一 教授】
長野県松本市生まれ。全国各地のヘルスケア団体役員も務め、おもに自治体や企業などを対象に「健康づくり」のための企画や指導に携わる。NHK「きょうの健康」ほかTV出演経験多数、著書「10歳若返るインターバル速歩の秘密」ほか多数。アジア競技大会参加選手のコンディショニング指導やアトランタオリンピックトレーナー経験など、プロスポーツ選手への指導経験も豊富。
取材・撮影/佐藤春香