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【杉本 幸祐:モーグル】     「クラシック」追求して     前人未到の金メダルへ

「ジャンプの技は、昔からあるものをスタイリッシュに大きく跳んで、完成度高く決めたらめちゃめちゃ格好いい。それが一番クールだと思っている」
 スキーフリースタイル(モーグル)男子の杉本幸祐は、自身の哲学をそう語る。2022年の北京五輪は世界ランキング4位でメダル候補として臨んだものの、準決勝でストックが折れるアクシデントに見舞われた。それでも、苦い経験は次なる挑戦への糧となった。
 「4年間の組み立て方がようやくわかった。これぐらいのリズムだったらメダル候補でいける、これぐらいなら金メダルも狙える。そういう肌感覚が、1回出たことでつかめた」
 静岡県出身。幼少時から両親に連れられてスキーに親しみ、中学1年の夏から長野県大町市に移り住んだ。「第2の故郷」と呼ぶ信州の山々で技を磨き、独自のスタイルを確立。世界の若手がより高難度な技に挑戦する中、クラシックな技の追求を選んだ。

 上下のエアで同じ種類の板をつかむ「ミュートグラブ」。この技の世界的な第一人者として、他選手との差別化を図る。モーグルは、ターンとスピードとジャンプの3つの要素を競う競技。その全てを高いレベルで調和させることが求められる。
 昨シーズン終盤、世界大会で左膝の大ケガを負う。前十字靭帯断裂、内側側副靱帯損傷、半月板損傷――。東京都のナショナルトレーニングセンターで4カ月間を過ごし、リハビリに専念した。「選手生活の残り時間を死にもの狂いでやりなさい」。コーチの言葉が胸に刺さった。
 孤独なリハビリの日々で、自問自答を重ねた。なぜ金メダルを目指すのか。その答えを探る中で、映像制作という新たな挑戦も始めた。「スキー界には映像カルチャーがしっかりしている。でも競技者が自ら発信し、作品を残すということはなかった」

 30歳。日本チームでは最年長となったが、11月末のワールドカップ開幕戦で復帰を果たした。2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪まで、残された時間は長いようで短い。「金メダルという言葉を毎日書いて、『取って当たり前』というマインドで臨んでいる」と力を込める。
 モーグルを始めるきっかけとなったのは、2006年のトリノ五輪。そして20年後、同じイタリアの地でのひのき舞台を見据える。「100人いたら100通りの金メダルの取り方がある。それで取った人が正解だと感じた」。自らが希求するクラシックを極め、日本男子未到の領域へ踏み込む。


Profile 杉本 幸祐(すぎもと・こうすけ)
モーグル
1994年12月2日生まれ、静岡県出身。中学進学を機に長野県大町市へ。松本大を卒業後はデイリーはやしやに所属。2022年北京大会で冬季五輪に初出場した。昨シーズン終盤に左膝前十字靭帯断裂などの重傷を負ったが、リハビリを経て復帰。2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪での金メダルを目指し、11月末のワールドカップ開幕戦で復帰を果たす。174cm、71kg。

取材/大枝令