特集

【平林安里:マウンテンバイク(XCO)】            世界を駆けるマルチ・チャレンジャー

長野県白馬村を拠点に、マウンテンバイク(MTB)、山岳スキー、ラリーと複数の競技で世界を目指すアスリートがいる。平林安里、28歳。ともにアスリートだった両親のもと幼少期からアルペンスキーに取り組み、高校時代には全国大会で優勝するなど華々しい成績を収めてきた。

 そんな彼をより広い世界に引っ張り出したのが、高校2年生で転向したMTBだった。18歳で既にプロ契約を結び、企業所属の選手として活躍。現在は自身が立ち上げた「TEAM SCOTT TERRA SYSTEM」の選手兼代表として活動し、日本トップのレーサーとして戦い続けている。
 主戦場であるMTBクロスカントリーオリンピック(XCO)では、2022年の全日本選手権で優勝、2024年は首位から約20秒という僅差で2位となるなど国内トップの実力を維持している。「この時間差だとゴールの瞬間の相手の背中が見える。それは悔しい」と振り返りつつ、闘志を燃やす。

 MTBの魅力について平林は、スピードを出しながら起伏のあるコースを自ら工夫しながら走ることの面白さを挙げる。近年は機材の進化も著しく、サスペンションに人工知能のような電子制御システムが導入され、最先端の技術を駆使して競技に取り組んでいる。こうした技術革新も、競技の奥深さを増す要因となっている。

 シーズン中(3月~10月)は国内外の遠征と練習に費やし、冬季はトレーニングの一環として山岳スキーに挑む。ゲレンデではなく雪山を自らの足で登り、自然の斜面を滑り降りる過酷な競技だ。2024年2月に中国・ハルビンで行われた冬季アジア競技大会では男子スプリントと混合リレーで5位。2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪での日本代表入りも夢ではない状況まで実力を向上させている。
 さらに今年は新たな挑戦として、TGRラリーチャレンジにも参戦。「モータースポーツはMTBより多くの要素が絡む競技で、結果につなげるためには粘り強さが必要」と語り、異なる分野への挑戦にも果敢に臨んでいる。
 MTB、山岳スキー、モータースポーツ──一見すると全く異なる競技に見えるが、平林にとってはすべて「世界で戦う」という共通の目標に向かうためのチャレンジだ。それぞれの競技で培った技術や精神力が、他の競技にも良い影響を与えている。
 彼の目標は常に世界の舞台で戦うこと。直近では2026年の名古屋アジア競技大会を目指し、その先にはワールドカップや世界選手権、さらには2028年ロサンゼルス五輪を視野に入れている。

 2021年のレース中には背骨骨折という大ケガを負いながらも、見事に復活を遂げた平林。その強靭な精神力と向上心は、白馬の雄大な自然の中で育まれたものかもしれない。
 多くの競技に挑戦し、それぞれで世界レベルの実力を身につけた稀有なアスリートが、次にどんな景色を見せてくれるのか。白馬から世界へ──平林安里選手の挑戦は、まだまだ続く。

Profile平林安里(ひらばやし・あり)
マウンテンバイク(XCO)山岳スキー・ラリー
1997年5月14日生まれ、長野県白馬村出身。TEAM SCOTT TERRA SYSTEM所属。2021年のレース中に背骨骨折の大ケガを負ったものの復帰し、国内トップ選手としてカムバック。2022全日本MTB選手権優勝、スキーモ(山岳スキー)でも国際大会5位入賞。

取材/生田和徳