小学生から大人まで、約15人が汗を流す少林寺拳法 松本美ヶ原スポーツ少年団。「物騒なニュースを見て、護身術を身につけたくて」と通い始めた2児の母から、全国大会に挑戦する子どもたちまで、幅広い世代が集う道場で、少林寺拳法の精神と技を学んでいる。
少林寺拳法は1947年、宗道臣によって日本で創始された武道だ。「力の伴わない正義は無力、愛のない力は暴力」を意味する「力愛不二」の教えと、「自己確立」「自他共楽」の思想が根幹にある。大会は演武のみで、他者との勝敗を競うのではなく、自己の成長と技の完成度を追求することが目的となる。
「少林寺拳法は勝つ為でなく負けない為の護身の技法で、その技と心構えは人格形成にも影響します」。久根下直樹代表はそう説明する。「相手の咄嗟の攻撃を瞬時にかわし、すぐさま制止あるいは反撃できるよう、練習を重ねて動作を体に染みこませることが重要です」。
日々の稽古は、準備運動から始まり、基本、移動、技の練習という流れで進む。「普段の生活で何かあったとしても、体が無意識に反応できる」ことを目指し、正しい足の位置や運び、構えが自然とできるまで反復練習を行う。普段あまり使わない筋肉を使う技もあるため、センスの有無ではなく、地道な積み重ねが力となる。
今年8月、岡山市で開催された第18回全国中学生少林寺拳法大会に出場した遠藤茜音(中学1年生)は、「大会出場で友人との関わりが増え、自分の成長につながった」と振り返る。同じく8月の全日本少年少女武道錬成大会に挑んだ西村陽介(小学6年生)も「全国の舞台は緊張したけれど、自分の成長を実感できた」と手応えを口にする。
道場には障がいを持つ子どもも通う。小学4年生の終わりから入団した遠藤梓沙の父親は、「周りの人が上手に関わってくださり、本人も生き生きと練習に励んでいます」と目を細める。11月の全国大会では、姉の茜音と息の合った組演武を披露した。
「人との触れ合いからコミュニケーション能力が身につき、それによって自分の成長を感じられる」。道場に通う子どもたちは、少林寺拳法の楽しさをそう表現する。小学3年生の高際弘太郎は「休憩時間に友達と遊べる」と笑顔を見せながらも、稽古に臨むと凛とした表情に変わる。
自分の可能性を信じ、目標や夢のために努力しながらも他者の幸せも考える――。少林寺拳法が説く「自己確立」と「自他共楽」の精神は、確かにこの道場に息づいている。
【高際 弘太郎 くん (小学3年生)】
少林寺拳法は、お父さんから勧められて小学1年生から始めました。練習に通い、新しい友だちもできました。人と出会えることが少林寺拳法の楽しさだと思います。
【西村 春樹 くん (小学3年生)】
お母さんが少林寺拳法をしていたこともあり、小学1年生から通い始めました。8月の全国大会は緊張したけれど、大会後にはみんなで東京観光もでき、とても楽しかったです。
【西村 陽介 くん (小学6年生)】
小学4年生から始め、少林寺拳法を通していろんな人との関わりが増えたので、人との接し方も上手になったように感じます。今後は、もっと腕を磨いて、黒帯を取ることが目標です。
取材・撮影/児玉さつき