2024年7月、全国高校野球選手権長野大会の1回戦。大町岳陽は2-4の九回裏で同点に追いつき、延長十回にサヨナラ勝ちを収めた。「苦しい展開でベンチもピリピリ。予想もできなかったサヨナラ勝利は、先輩たちの強い思いが勝った結果」と新3年生の梨田悠貴は振り返る。しかし3日後の2回戦は、序盤に3点を先取しながらも逆転負け。トーナメント戦の厳しさを実感することになった。
2016年に大町高校と大町北高校の再編統合で誕生した大町岳陽。現在の野球部は2年生10人、1年生3人、マネージャー2人で構成されている。横川誠監督は「部活動は子どもたちのための活動」と強調し、「子どもたちがどうしたいのかを考え、自分に何ができるかを考えて指導している」と指導方針を掲げる。
チームが目標に据えるのは、今夏のベスト8進出。北アルプスの麓に位置する大町市では冬場はグラウンドが雪に覆われ、全体練習が難しい環境だ。しかし横川監督は「焦ることなく自分と向き合える貴重な時間」と前向きに捉える。この期間、選手たちはピッチングやバッティング、キャッチボールなど、個々の課題克服に取り組む。
5月の春季大会で経験を積み、選手たちの視線は集大成の夏に向いている。「春の大会はいけるところまで勝ち進められればいい。春季大会も練習試合も、すべて夏の大会で勝つため。勝っても負けても、試合での反省を力に変え、夏のベスト8達成を目指したい」と梨田は語る。
西山航主将も「チーム一丸となって同じ方向を向き、目標達成を目指したい」と力強く話す。「夏のベスト8には私立校との対戦が必須。レベルの高い私立の野球に対抗するため、工夫して練習していきたい」と意気込みを示す。
毎日の練習に真摯に臨み、力を蓄えてきた部員たち。「あとは『行きたい』という希望から、『行ける』という確信へと気持ちを切り替えることが重要」と横川監督。新年度からはグラウンドでの練習も再開し、個人技とチームプレーに磨きをかける。たゆまぬ努力を胸に刻み、部員全員の気持ちを一つにして、目標に向かって全力疾走する。
【新3年生 梨田悠貴さん】
父の影響から、小学3年生で野球を始めました。チームプレーである野球は、マイナスの感情を表に出してしまうと、他の選手にも伝染してしまうと横川先生からアドバイスをもらいました。そのため、自分よりも相手の気持ちを優先し、悪い感情は表に出さず、メンバーのモチベーションを上げることを心掛けています。
【主将 西山航さん】
野球は小学5年生から始めました。野球を続けてきたことで、挨拶はもちろん、自分から積極的に話しかけられるようになりました。高校の部活動では、「ありがとう。」という感謝の気持ちの大切さを学びました。「プレーで地域の人を感動させる」ためにも、目標達成に向け、チームで同じ方向を向き、全力で頑張りたいと思います。
【監督 横川誠さん】
さまざまな人に助けてもらっているからこそ、野球を続けることができる。そんな周りの人たちへの感謝の気持ちを忘れずにいてほしい。また、目標を持ち、一生懸命部活に取り組むことはそれだけで価値があることだと思います。将来、その目標が仕事や家族、仲間へと変わったとしても、野球と同じように自信を持って歩んでいって欲しいと願っています。
取材・撮影/児玉さつき