「勝ち負けだけにこだわるのではなく、子ども一人一人の成長を見届けてあげたい」。塩尻ジュニアバレーボールクラブの活動理念について、谷崎幸一郎監督はそう語る。約10年前の発足以来、人としての成長を第一に考え、独自の指導方針を貫いてきた。
練習開始前の午後7時、4〜5年生がネットを張り、1~3年生が雑巾がけに励む光景が広がる。「良い環境でバレーボールをするためには、自分たちで環境を整える必要がある」。この伝統は発足時から続いている。
「素敵な人、素敵な女性になるために、仲間のことや心の痛みを感じられる人に成長してほしい」と谷崎監督は願う。バレーボールは仲間同士でボールをつなぐスポーツ。そのためには信頼関係を築く必要があり、「面倒くさいと感じる仕事をどんどんした方が良い」と子どもたちに促す。
「仲間はいつも見ている。楽なことばかりしていると、心の負い目になり、ピンチの時に本当の自分が出てしまう」。
5年生の新キャプテン・深見遥香は「ネット張りや雑巾がけは大変だと感じる時もあるけれど、ちゃんとしたコートを作るためには自分たちでしっかりやらなければいけないと思っている」。監督の想いは受け継がれている。
練習は火、木、土、日曜の4日間が基本。谷崎監督とコーチ4人の計5人が指導にあたり、全員が公認スポーツ指導者の資格を有している。ユーモアを交えながらもメリハリのある指導で、谷崎監督は「バレーボールを楽しいと感じてもらい、ぜひ中学生になってからも続けてほしい」と願う。
リーグ戦のほか、長野米カップやマルニシCUPなど、各種大会にも出場する。2023年のマルニシCUP第41回長野県小学生大会では、それまで勝てなかったチームに勝利。その前年の対戦では、田中一叶のレシーブ1本が試合の流れを変えるという印象的な場面もあった。
谷崎監督は「アタッカーだけが特別ではなく、アタッカーを育てるのはセッター、セッターを育てるのはレシーバー。みんながつないだボールをたまたま最後に決めたのがアタッカーというだけ。一発目のレシーブがちゃんと決まれば、大体うまくいく」と、全ポジションの重要性を説く。
みんなで繋ぐ。「コートの中には味方しかいないから、みんなでボールをつないで決められた時が一番楽しい」と笑顔を見せるムヨット・サマンタ。自身を含めた3人の卒業生全員は「中学生でもバレーボールを続けたい」と口をそろえ、その姿に監督も満足げな表情を見せていた。
【左から3番目キャプテンの 深見遥香さんと低学年メンバー】
お父さんがバレーボールをしていたので、その影響から小学1年生の時にバレーボールを始めました。キャプテンとして活動するようになって、チームをまとめることは大変だと実感しています。将来はバレーボールの選手になりたいですが、もしなれなくても、バレーボールに関わる仕事をしたいと思っています。
【監督 谷崎幸一郎 さん】
バレーボールのコート内にいるのは味方だけ。バレーボールはいかに仲間をうまく利用して、お互いに助け合えるかが大事。そのためにはコミュニケーションや信頼関係を築くことが必要です。ぜひクラブで信頼できる仲間と出会い、将来大人になってからも悩みを相談できる、親友と呼べる人を見つけてください。
取材・撮影/児玉さつき