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【伊藤 崇之:アイスホッケー】    1歳で見た夢の舞台が原動力    日本を守る氷上のゴーリー

スポーツにおけるGKはしばしば、「守護神」と称される。アイスホッケーはとりわけ、守護神が花形となるスポーツ。長野市出身の伊藤崇之(東北フリーブレイズ)が新設された2025IIHFアジア選手権(11月、カザフスタン)の日本代表に選ばれ、2位を経験した。

 「初めて代表のユニフォームを着て試合後に日の丸を掲揚した瞬間は、魂が震えるものがあった。これまで世代別代表にも選ばれなかった自分が、やっとここまで来られたと実感した」と振り返る伊藤。原点は1998年、長野五輪にあった。
 開催時は1歳。だが、カナダ代表のパトリック・ロワに鮮烈なインパクトを受けた。「その時から自分は日本代表のゴーリーになると決めた」。3歳から競技を始め、6歳から本格的にゴーリーとしてプレーしてきた。
 長野イーグルスと軽井沢グリフィンズを経て、高校は水戸啓明(茨城)へ。法政大を卒業後はフィンランド、フランスなどでもプレーした。現在はパトリック・ロワが長野五輪で背負った番号「33」をチームでつけ、冷静な性格から高いセーブ率を誇る。

 アイスホッケーは氷上の格闘技とも言われ、ゴーリーは名実ともに花形の存在だ。入場では最初に登場し、身に着ける防具は最も重装備。近距離から放たれる時速160kmにも上るシュートを9割以上の確率で止めねばならない。
 そして今回、アジア選手権の日本代表に選出。カザフスタン、韓国、中国、日本の4カ国が参加した。伊藤も韓国戦にてリンクに立ち見事勝利。チームとしては中国にも勝利し、2勝。開催国カザフスタンに次ぐ2位の成績を収めた。
 幼い頃に見た夢を実現した伊藤。両親ともアイスホッケーの競技経験者で、弟・俊之もH.C.栃木日光アイスバックスのFWだ。実家は善光寺で、父親が宿坊の一つで住職を務める。自身も現役引退後は僧侶の道を進むことを決めているという。
 ただ、それまではひたむきに見果てぬ夢を追う。「代表といっても世界選手権や五輪の代表になれたわけではない。自分の集大成はそこを目指す」。名実ともに日本の守護神となるため、その鍛錬は続いていく。


Profile伊藤 崇之(いとう・たかゆき)
アイスホッケー
1996年4月14日生まれ、長野市出身。長野イーグルス→軽井沢グリフィンズ→茨城・水戸啓明高→法政大学。海外経験もあり、フィンランド3部の「レーザーHT」で2年、フランス4部の「シャンピニー・ホッケークラブ」に1年在籍。2022-2023シーズンより東北フリーブレイズでプレーする。183cm、77㎏。

取材/生田和徳