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「あと3分」守れずJ2昇格が消滅 J3で4年目のリスタートへ

無情な結末が待っていた。J2昇格プレーオフ決勝に進んだ松本山雅FC。カターレ富山との決戦は終盤まで2点リードで試合が進んでいた。このままのスコアで上回れば、4年ぶりのJ2昇格。悲願はすぐそこまで見えかけていた。
 しかし80分に1点を返されると、迎えた90+3分、クリアが短くなった局面から素早くクロスを入れられ、相手FWにヘッドでゴールを許した。2ー2。スコアが同点の場合は、リーグ戦上位の富山が勝者となるレギュレーションだ。
 その後は必死で勝ち越しを狙うものの、無念のホイッスル。選手たちはピッチに倒れ込んだり、顔を歪めて号泣したり。灰色の雲が垂れ込めた富山の地で、2024年シーズンの挑戦は涙の終幕を迎えた。

 「松本山雅を応援してくれるすべての皆さんに昇格という結果を届けたかったので、ただひたすら残念で、悔しくて、申し訳ない気持ちでいっぱい。ほんの少し、いろんなところが足りなかったので昇格に届かなかったが、最後の最後まで本当に戦ってくれた選手を誇りに思う」。試合後の記者会見。霜田正浩監督は、消え入りそうな声で言葉を振り絞った。
 J2昇格プレーオフに進んだため残酷な結末がクローズアップされるものの、もともと今季のチームが目指していたのはJ3優勝とJ2昇格。結果的には、自動昇格圏内の2位FC今治との勝ち点差は13と、遠く及ばなかった。リーグ終盤戦を5連勝で終えて4位に滑り込んだものの、それまでは2連勝が最高。成績が安定しなかった。
 とりわけ、余計な失点が目立ったのが痛かった。「ボールを中心とした攻撃と守備」という昨季以来のコンセプトを継続しつつ、今季途中からは自陣ゴール前での対応に新たなルールを設けて強化を図った。一時は効果を挙げたものの、38試合のうち25試合で失点し、総失点数45(1試合平均1.18)は少ない方から数えて8番目。凡庸な数字に終わった。
 これで来季も4年目のJ3。不本意でもどかしい足踏みが続く。霜田監督は契約満了が発表され、トップチームを司る下條佳明スポーツダイレクターも退任。新たな顔ぶれでのリスタートとなる。せめて監督在任中の2年間で得られた成果を、大切に次のフェーズへ繋げるしかない。



 具体的には、個々の成長と組織のカルチャーだろう。素直にトライした村越凱光と野々村鷹人、そしてキャプテンを任された菊井悠介などは心技体とも大きな進化を示した。もちろん短い選手人生の中でステップアップをするかもしれないが、「成長できた場所」という実績は残る。ピッチ内で問題解決を図る土壌も徐々にでき始めた。決定的な痛みと引き換えに得られたものはあるのだ。
 そして最大の成果は、最終盤に再確認された。アウェイに1,300人が訪れた第34節から始まり、勝利を重ねるごとにサポーターの熱気と量が跳ね上がった。J2プレーオフ1回戦はホーム開催となり、その雰囲気で相手を圧倒。松本山雅には熱を生むエンジンが2つある。その両輪が機能するように、このオフシーズンで体勢を立て直したい。

取材/大枝令