新しいシーズンに入り、練習量が増えると、身体のどこかに違和感を覚える選手が増えてきます。スポーツ活動で生じるケガの場合、レントゲンやMRIなどの画像検査が行われ、その多くが画像上の変化によって診断がなされます。しかし、画像検査を行っても明らかな異常が検出されないこともあります。そうした場合、「筋肉の硬さ」や「柔軟性の低下」が痛みの原因と考えられがちですが、実際にはそれだけで説明できない痛みが存在します。スポーツにおける身体の動きは、筋肉や関節が機能するだけではなく、それらを包み込み、つなぎ、支えている筋膜や結合組織が重要な働きを担っています。
筋膜とは、筋肉を包み込む薄い膜であり、腱や靱帯、関節まわりの組織とも連続しながら全身に広がっています。単なる筋肉の覆いではなく、組織同士をつなぎ、動きの中で生じた力を伝える役割も担っています。ボールを投げる、蹴るといった動作も、筋肉がそれぞれ独立して働いているのではなく、筋膜によってつながりながら、全身で行っているのです。
そして、筋膜のまわりにある結合組織も、スポーツ活動の際に重要な役割を果たしています。これはいわゆる皮下脂肪の層で、浅筋膜(せんきんまく)とよばれます。じつはここに筋肉がスムーズに動くための機能や痛みに関わる要素が含まれています。この結合組織は一様ではなく、「組織を支えて守る働き」と、「組織同士の滑りを助ける働き」という、異なる性質をもった部分が存在します。前者は、比較的しっかりとした線維構造を持ち、皮膚やその下の組織を支え、外からの力に耐える役割を担います。これは保護的な脂肪筋膜系(Protective Adipofascial System:PAFS(パフス))と呼ばれ、身体の形を保つ“支え”として機能しています。一方で、後者はより柔らかく、疎な構造を持つ結合組織で、筋肉や筋膜どうしが滑らかに動くための“すべり”を生み出します。これは潤滑的な脂肪筋膜系(Lubricant Adipofascial System:LAFS(ラフス))と呼ばれ、動作の中で組織間の摩擦を減らし、滑らかな動きを支えています。(図)スポーツ活動中、筋肉は周囲の組織と滑りながら連動していて、とくに走る、跳ぶ、切り返すといった動作では、身体に加わる力やねじれを、股関節や体幹を中心に全身で受け止め分散していますが、LAFSの機能が不十分だと筋膜の滑走性が低下してしまい、力を適切に分散できず、首や背中、肘や膝といった部位に負担が集中し、それが痛みとして現れることがあります。
この“滑り”を改善する方法の一つが、ハイドロリリースです。これは、生理食塩水などの液体を筋膜のまわりにある結合組織へ注入し、組織の間にわずかなスペースをつくることで、組織同士の滑りを改善する治療法です。麻酔薬や特別な薬剤を用いるのではなく、滑らかに動きにくくなった結合組織に生理食塩水を注入するだけで、滑走性を改善させ痛みの軽減が得られることがあります。スポーツ活動で痛みや違和感が生じたとき、その原因は筋肉そのものではなく、筋膜やその周囲にある結合組織の“動きやすさ”が低下している場合があり、たとえば、朝起きたときに首が痛い、寒い時期に走ると関節まわりに違和感が出るといった現象も、組織同士の滑りが十分でない状態として説明できることがあります。
スポーツによる痛みは、身体の一部分だけに原因があるわけではありません。筋膜や結合組織は、身体の一部としてではなく、つながりとして捉えること。その視点が、ケガを防ぐ第一歩になります。

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▶PROFILE 百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士
